理想恋愛屋
 なんでこんなに言い合いになってるかわからない。

そもそも、彼女とこうする意味もないはずなんだ。


「はい、もうこの話はおしまい!」

 ピシャリと遮ると、彼女はプンと顔を背けてしまった。

 まったく、知るかこんな女!


 ようやく空いた仕事用のデスクにつく。

パソコンに向き直り、オレはメールの返信やらパーティ会場の取り付けに追われる。


 彼女が現れたことにより、だいぶロスがしわ寄せしてる。さっさと片付けるため、手早くカチカチとキーボードを叩く。



 ……それにしても、だ。

キータッチの音だけが響く事務所が、やけに恐ろしくなる。

それが通常なはずなのに、彼女がいるだけでオレの生活は非日常に変わるんだ。


 モニターの向こうをこっそり覗くと、ソファの前にあるローテーブルに食い入るように見つめる彼女。

 そんな珍しいものじゃないはずだから、なにかあるんだろうか?

「どうか、したか?」

 オレは思わず声をかけた。


「今度の日曜日!」


 急に声を張り上げるからオレもビクッと震えてしまう。

 ピラっと見せてきたのは、置き忘れたのか、さっき萌がもってきたうちのチケットの一枚だ。


 そんな心配をよそに、彼女はニヤリと口端を吊り上げて挑発するような視線。


 彼女のこの表情……正直言って苦手なんだよ。




「葵、連れてって!!」


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