理想恋愛屋
「だぁれが待つかぁっ」

 あどけない少年の声は、そのままオレの膝の裏に突っ込んでくる。

「うっわぁぁああっ」

 声が重なると、ドミノ倒しのごとく倒れこんだ。

 隣の彼女はちゃっかり腕を離して自分だけ避難してる。

正面からつんのめったので思い切りひざをうちつけ、オレだけ痛い思いだ。


 ちくしょぉっ!

痛みを堪えながら、ジーンズの上から膝を擦りながら立ち上がる。


「いってぇな……っ」

 パンパンと手ではたくと、足元にはふくれっつらの小学生くらいの男の子がいて、悔しそうに転んだままだった。

「大丈夫か?」

「へ、平気だよ!」

 少年はプイとそっぽを向いてしまった。

そんな少年の頭に鉄拳がおちる。


「いてえぇえっ!」

 そうだろうとも、少年よ。

「うっさいわねー、アンタがぶつかってきたんだからアンタが謝るもんなのよ!」

 どうやら姫は、相当ご立腹のようだ。

 頭をさすりながら反抗的な目を彼女に向ける少年は、そんな彼女に勝てるとでも思っているのだろか。


 オレがその場をなだめようとしたとき、少年の向こうからオレより確実に年上だろう男性が慌てたようにやってくる。


「すみません、息子がぶつかったんですよね?」

 物腰の柔らかそうな男性だ。

ペコリと頭を下げて、少年の体をがっちりかこんでいた。

「あ、いえ」

 オレが答えるとぎゅっと尻の肉がつままれる。


 いってぇっっ!

隣の彼女から痛いほどの視線。


 おいおい、許すなってことかよ……。

< 49 / 307 >

この作品をシェア

pagetop