理想恋愛屋
「ほら、二人に言うことあるだろ」

 肘でつつくと、まだ納得できないともいいたそうだったが、彼女は意を決したようにペコリと頭を下げる。

「勘違いしてすみませんでした」

 やっぱり彼女のお辞儀はきれいだと思う。

この堂々とした態度もそうなのかもしれない。

そして彼女は、足元の不満げな少年にちらっと目線を移す。

「謝るときはこうすんのよ」

 きょとんとする少年にまるで姉のように諭す。

年が離れすぎてるけど、きっと子供がきらいじゃないんだろうなってのはオレにだってわかった。

「じゃあ、オレたちもいくか」

 隣の彼女に目をやると、小さく頷いた。

すると「そうだ」と何か思い出したように、彼女はもう一度少年に振り向く。

「もうひとつ、イイコト教えてあげるわ。
言いたいことを言いたいときに言えないでいると嫌でも残るものがあるの」

「……残る、もの?」

 彼女の言葉に、オレも少年と同じことを思った。

きっとそれを見つめてるこの子の父と萌も思っただろう。


「『後悔』よ」

 ぽかんとする少年に彼女は笑いかける。

それは、多分まぎれもない天使だったんじゃないかとさえ、オレに勘違いさせるほどだ。

「ヤバイ、今から並んだらみれなくなっちゃう!」

「え、パレードはまだだけど?」

「はぁ?何いってんの、そんなモンじゃないわ!ほら、いくわよ!!」

 肩が抜けそうなほど引っ張られ、オレは仮にも天使と思った己を嘆く。

そんな彼女がピタリと足を止め、淡い色をした毛先を宙に遊ばせた。

「萌さん、あと三十分後に中央広場にいってみてください。もしかしたら、貴女次第で何か変わるかもしれないわ」

 クスリと何かを挑発するようなその言葉に、オレは思わずゾクリとしてしまった。


 戸惑ってる萌の声を聞かないように、彼女はオレを引きずって足早にその場を去った。


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