理想恋愛屋
相変わらず無茶ばっかりするんだから、あのおてんばお姫様は!
萌の手をとって回るようにステージにこっそり近づき、その距離を足早に縮めていく。
それでもまだ聞こえてくる彼女の声を頼りに人にぶつかりながら進んでいくと、ようやく、並んでいたパイプ椅子のエリアに到着した。
壇上には見覚えのある彼女の姿。
周りからは「どうなってんだ?」なんて疑問の声が飛んでくる。
さすがの彼女の行動に、マイクを奪われた真紅のドレスの植松サンとやらが警備員に連絡したようだ。
制服を着た男が彼女の周りを取り囲んでいる。
「葵ーっ!早くしな……きゃあっ、どこ触ってんのよ!」
警備員が彼女の腰辺りを押し出すように触ったらしく、彼女は腕を思い切り振りかぶっていた。
だけどその瞬間、彼女の体がグラリと客席に向かって傾く。
「はる……っ」
すぐそばまで来ていたから、オレは萌の手を離して咄嗟に走りこんでいた。
規則的に並んで座っている人の波を縫って、身体中の筋という筋をピンと張る。
伸ばした腕を地面と彼女の体の間に祈るように滑り込ませた。
ズザザーッと擦り切れるような音が響いて、周囲で見ていた人たちの心臓に更に負担をかけてしまう。
あたりは静まって、オレも実際目を瞑っていた。
ゆっくり瞼を開くと、ようやく時間が思い出したように進み始めた。
「遥姫っ!」
壇上から覗き込む兄。
「ん……っ」
周りからもようやく安堵の声が漏れる。
萌の手をとって回るようにステージにこっそり近づき、その距離を足早に縮めていく。
それでもまだ聞こえてくる彼女の声を頼りに人にぶつかりながら進んでいくと、ようやく、並んでいたパイプ椅子のエリアに到着した。
壇上には見覚えのある彼女の姿。
周りからは「どうなってんだ?」なんて疑問の声が飛んでくる。
さすがの彼女の行動に、マイクを奪われた真紅のドレスの植松サンとやらが警備員に連絡したようだ。
制服を着た男が彼女の周りを取り囲んでいる。
「葵ーっ!早くしな……きゃあっ、どこ触ってんのよ!」
警備員が彼女の腰辺りを押し出すように触ったらしく、彼女は腕を思い切り振りかぶっていた。
だけどその瞬間、彼女の体がグラリと客席に向かって傾く。
「はる……っ」
すぐそばまで来ていたから、オレは萌の手を離して咄嗟に走りこんでいた。
規則的に並んで座っている人の波を縫って、身体中の筋という筋をピンと張る。
伸ばした腕を地面と彼女の体の間に祈るように滑り込ませた。
ズザザーッと擦り切れるような音が響いて、周囲で見ていた人たちの心臓に更に負担をかけてしまう。
あたりは静まって、オレも実際目を瞑っていた。
ゆっくり瞼を開くと、ようやく時間が思い出したように進み始めた。
「遥姫っ!」
壇上から覗き込む兄。
「ん……っ」
周りからもようやく安堵の声が漏れる。