理想恋愛屋
「結構お似合いよ?」

 萌の言葉にぶっとお茶を噴出してしまう。

「……は!?」

 おいおい、ちょっと待ってくれよ!


 慌てて口元を拭い抗議のまなざしを送ってみるも、そんなオレを弄ぶかのように萌は笑う。


「助けに飛び込んだときの葵、カッコよかった」

 萌に笑顔で言われると、口がうまく動かなかった。

昔はずっとみたいと思っていた、きれいな笑顔だったから。


 ……ただアレのせいで、右腕は赤く擦り切れていたし、体中筋肉痛なんだけど。


「そ、そんなこといっておだてたって……何もないからな」

「あら、それは残念ね」

 今更恥ずかしくて、グラスのウーロン茶を一気に飲み干した。

 外は夏に向かっていて、そろそろ冷房でもつけようか……なんて、熱いのを気温のせいにしようとした。

でもそんなオレを可笑しそうに萌は笑ってるだけだ。


「で?匠さんといつ式あげるんだよ」

 話題をとにかくそらしたくって、ぶっきらぼうに訊ねる。

「まだ日にちとかは全然。先方にも御挨拶に行かなきゃだしね」

「そうか、これから忙しくなるな」

 うん、と萌は嬉しそうに頷いた。


 彼女はこうなることを知っていたのだろうか?

だからあの時、少年に『後悔』を教え、式典をぶち壊すように暴れたのか。


 ……全部あとづけだけど。


「遥姫ちゃんの言葉は、ヘビー級よね」

 肩をすくめるようにいう萌にオレは同感だ。

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