理想恋愛屋
「そろそろかなぁ?」

 萌は白く細い腕に収まるかわいらしい時計に目をやる。

なんだ?というオレの疑問に気づいたのか、ペロっと舌を出す。

「ごめんね、ココで待ち合わせしてるの」

 まったく、どいつもこいつも事務所を休憩所代わりにつかいやがって!

とは萌に言えるわけがない。


 そんな事務所の廊下からバタバタと足音が聞こえる。

ガタン!とありあまる勢いと共に登場したのは……


「げ」

「萌さーんっ!」

 制服をヒラリと舞わせて、ソファに座る萌に抱きついたのは噂の彼女。

「おかえりなさい、遥姫ちゃん」

「そうだ、ちょっと待っててね!」

 萌から離れた彼女は、向いに座るオレの隣にやってきてピタリと足を止める。

「な、な、なんだよ……」

 震える声に、彼女は天使の微笑みを返す。 おかげでこっちの心臓は暴れまくる一方だ。

しかしその好機を彼女は見逃すわけもなく。


「いっただきーっ」

 そういってオレの上着からまたもや財布を抜き取る。


 ……しまった。何度も同じ手にかかるオレって。

どうしようもない情けなさが、ずどんと肩にのしかかる。


 彼女は嬉しそうにパタパタと足音を響かせ、また部屋を出て行ってしまった。


「お、オレの金がぁ~」

 なんとも切実な声が事務所に響く。

「まあまあ、葵さん。気を落とさないで」

 なんとも優しい声をかけてきたのは、いつの間にか事務所にやってきていた兄だった。

 驚きのあまり、開いた口がふさがらなかった。


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