理想恋愛屋
「どうも、ご丁寧に」

 にこやかに受け取る兄とは対照的に彼女はぽかんと口を開けている。

さすがの彼女も、このオレの笑顔にヤラれてしまったんだ。


心の中でしめしめ、とニヤつく自分を押さえ込んだ。


「調査書をもとに、ご紹介できるような女性を探しておきますので、また後日連絡します」

 事務的に説明すると、素直にハイと返事をする兄。

ひたすら沈黙を通す隣の彼女がヤケに恐ろしく感じる。


いや、オレにときめいてしまってるんだから。

なんてプラス思考は、この後打ち砕かれる。


「アオイって、笑顔のペテン師ね?」

 ピシリとこの事務所が凍てつく。

営業スマイルだってのが、彼女にはバレバレだってことだ。


「ハルキは言いすぎだよ?」

 相変わらず風を吹かすようにいう兄も、そう思っていたってコトが分かった。


 なんだよ、この兄妹には筒抜けかよ。


「……とにかく、また連絡します」

 語尾が弱いのは気にしないでくれ。


「よろしくお願いします~」

 ペコリと兄は会釈をすると席を立つ。


 カチャリと扉が閉まる音をきいて、オレも肩を落としたままデスクに戻る。

パソコンを起動させて、調査書を無造作にばさっと机に広げた。




 ……──ん?

まだ、目の前にいるんですけど、彼女。

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