理想恋愛屋
「え?女が苦手?」

「はい……、お恥ずかしいことに」

 しょんぼりと肩を落として、再びカバンを抱きしめていた。

 イマドキ、珍しいやつがいたもんだ。
でも、新たに疑問が浮かぶ。


「じゃあなんでうちみたいなとこに……」

 ここは『理想恋愛屋』。恋を商売にする仕事なんだ。

 オレの言葉に、早乙女サンは水を得た魚のように顔がほころんだ。

「よくぞ聞いてくださいました!」

 いちいちオレの手を握るのはやめてほしいんだけど。


「僕を……男にしてください!!」


 ……これは、どういう意味でしょうか?

 オレも男ですから。
うら若き乙女からのお誘いならば、大歓迎しちゃうかも。

けれど目の前にいるのはどうみても、同世代の、しかもオトコだ!


 この数分のやりとりでわかったこと。

「早乙女サン、誤解を招く発言は気を付けた方がいいよ……」

 オレの忠告の意図ははっきりと汲んでくれなかったようで、何か思い出したように話し始めた。


「実は、うちの雑誌と下着のブランドメーカーが提携することになって、僕が担当になったんです」

「へぇ、よかったじゃないですか」

 話がブッ飛んだことは、もうこの際置いておこう。


「何いってんですか!先方はやり手の女社長だし、それに……」

「それに?」

 いまや女性が会社のトップなんて、珍しい話じゃない。

 まあ、女が苦手な彼にとっては大きな問題かもしれないが、このご時世、商談に男女は関係ないと思う。


 言葉に詰まった彼の次の言葉を待つ。

「それにあわせてファッションショーもやるんです」

「……はぁ」

「ショーはプロのモデルさんがやってくれるんですが、今回のイチオシは素人でっていう方針なんです……。
でも!僕、女の人だメだしっ!しかも下着のモデルだし!」


 ここで、ようやく話が見えてきた。


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