理想恋愛屋
 スッパァァアアン!!

「痛い~っ!」

「だぁからアンタはオトメくん、なんて呼ばれんよ!」

 いつの間にか現れたのは──今のところ、オレの最大の弱みとも言える痛々しいその音を叩き出す、アノ彼女。


「ちょ……お前っ!」

 背中をさすってる彼を横目に、オレは彼女の肩に手をかける。

「んもうっ、うっさい男ね!!」

 振り払うように勢いよく振り向いてくるので、勝ち気な瞳と視線が合った。

そのキッと吊り上げた彼女の眉に、オレのこめかみがカチンと反応する。


「あのなぁ!早乙女サンの事情も知らねえで……!」

「今聞いたわよ!仕事だかなんだか知らないけれど、そんなキモチじゃ誰もついていかないわ!」

 食って掛かる彼女の言葉に、どうしてオレはいつも退けをとってしまうんだろうか。

更にずずいと詰め寄ってくる彼女。 


「やりたいことなら好きなだけ打ち込めばいいじゃない!」

 まっすぐな瞳が、胸をなぜだかえぐるようだった。


 仕事してれば、全部納得できるなんてありえない。

でも、その中でどうにかして『自信』を見つけたくて仕方ないものだ。

だから、彼も苦しんでもがいて、弱々しくとも続けてるんじゃないだろうか。


「……葵さん」

 先ほどまであんなに落ち込んでいた彼は、どこか背筋がぴっと直っていた。

意を決したように、少しオレより低い視線が向けられた。


「僕、がんばります!」

 ぐっとこぶしを握り締める彼が、なんだか逞しく見えた。

彼女の渇が効いたみたいだ。

「ええ、その調子ですよ」

 少し日が落ち始め、ひんやりとした空気が流れた。

 オレが早々に切り上げるためにもくるりと体を回したそのとき。

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