理想恋愛屋
「葵さん?」

 かかる兄の声にハッと我に返ると、視界の端に萌の肩を抱いてる姿が映る。


「……そ、そう!お前は高校生だし!下着のモデルなんてご家族が反対するにきま──」

「お兄ちゃん、だめなの?」

 言葉を遮ってオレを押しのけた彼女は、後方にいる兄へ身を乗り出す。

「ちょっとぉ、僕を引き合いにださないで下さいよ~?」

 珍しく兄が困ってるようだが、そんなこと今は気にしている場合ではない。

オレは助けてくれといわんばかりに目で訴える。


 それを知ってか知らずか、肩をすくめて「困ったなぁ」と笑うだけだ。

隣の彼女も多分、同じことをしてるんじゃないだろうか。


 まさに、一触即発!

そんな雰囲気をやんわりねじ曲げるように、萌が一歩前に出た。


「遥姫ちゃん、一度ご家族に相談したらどうかな?そのお話は明日までみたいだし、返事はそれからでも構わないんじゃないかしら?」

 萌が伺うようにチラリと彼を見る。


「あ、そ、そうですねっ……!」

 妙にピシリと背筋を立てて彼が応える。


 ここでようやく、まともな意見に出会った。

さすがの萌の大人な対応に彼女も声が出ないようだ。


「……わかりました」

 彼女は少しだけ肩を落とす。

それにあわせて、慌てたように彼が差し出した名刺を受け取る。


「携帯にお願いしますね!……できれば、早めに…」

 どうやら彼は、先ほどのオレたちのやり取りにすっかり怯んでしまったみたいだ。


「……はい…」

 小さく頷く彼女に、どうだ、とばかりに目をやる。

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