理想恋愛屋
『ご親切にどうも!おかげさまで両親の許可は得られたんでっ』


 聞こえはいいが、その声は嫌味たっぷりなのを半月経った今でも覚えている。

何がそんなに気に障ったのか、オレはため息しか出なかった。

 そして、こうなった彼女を止める術をオレは知らない。


「まあ、やるからには頑張れよ?」

 それだけ言うと、少し間があって


『当日、来なさいよ?』



 ……はい?



「な、なんで……っ!?」

 どうもオレを驚かすのがスキらしい。

勝ち誇った彼女の不敵な笑みが想像できてしまう。


『よろしくね、しゃ・ちょー?』


 オレには拒否権のキョの字も無いらしい。

おまけにそれを近くで聞いていたと思われる兄から、電話を切った直後、1通のメールが飛び込んできた。


<当日、萌さんと一緒に楽しみにしてます>


 この妹にして、この兄だ。

あののん気そうに笑いながら手を振ってる姿が目に浮かぶ。





 ──と、まあ、紳士なオレはこうしてショーの会場に来てやっている。

あの彼女から指示されたとおり、控え室に向かっているのだ。



 あくまで、オトナな“紳士”として、だ!

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