理想恋愛屋
 ようやく辿りついた控え室では、ステージの様子を映し出すモニターが1台設置されていた。

オレはただ、そのモニターを見てるしかできずにいた。


 ……なぜかって?

圧倒的に女性の比率が多くて、正直、居心地は悪くてしかたないからだ。


何せ回りには下着姿や薄い生地の服だらけなので、露出度がとにかく高い。

本来ならばオトコってだけで追いだれるような場所のはずなのに、むしろ見せにいく人たちが集まるわけで……。

 どうしても目のやり場に困る。

 そんな時、珍しく困惑してるオレを救うかのように、更衣室を兼ねているカーテンの向こうから聞き覚えのある声が響いてくる。

「葵ー、鏡の前にあるメイクボックスもってきて」

 今回のオオトリを飾る、我らが姫だ。

 言われた通りもっていく──のだが。

こんな健全なオトコのオレはカーテンを開けるのすらも躊躇する。



 ─―これみよがしに存分に楽しめ?

いや、それも手だけどよ……。

 ─―ここはあくまでも『紳士』を貫くべき?

となると、このカーテンはどうやって開けばいい?



 そんな悪魔と天使がオレの中で、歴史的な戦争を繰り広げようとしていると、


「早くもって来なさいよ!」


 カシャン、と乾いた音を立てて白い清潔感のあるカーテンが勢いよく開いた。

でも幸運だと思ったソレは、更にオレを動揺へと導く。


.
< 85 / 307 >

この作品をシェア

pagetop