理想恋愛屋
「べ、別にそういうんじゃ…っ」

 ただ不思議な雰囲気を感じてただけであって。

確かに少しは、キレイだなぁ、くらいは思ったけど。

 そんなオレを彼女は軽くあしらう。

「はいはい」

 カーテンの向こうからカサカサと衣擦れの音が響く。

情けないことに、それだけでドキドキしてきてしまうから、さっとカーテンから離れて部屋の隅っこに移った。


 やることもなく、まもなく始る会場を映し出すモニターに視線を移す。

するとコソコソと潜めるような小さい声が、ヤケに耳に入ってくる。


「遥姫ちゃんってさぁ……」

 部屋は簡単に布で仕切られているだけだから、会話がほとんど筒抜けだ。

そんな中、カーテン越しの女の子たちの明るい声の一つに彼女の名前が挙がる。


 なぜか、オレがどきっとしてしまった。

「ええっ?そんな……」

 戸惑う彼女。なぜか彼女たちだけが潜めるものだから、内容がさっぱりだった。

いわゆるガールズトークというものか。

いつも強気で、有無を言わせないほどの迫力を持っている人物が、こんなにも戸惑っているなんて。

 そんな好奇心のせいにして、オレはなるべく耳を澄ましてしまっていた。

「ち、違うって!」

「え~?でもさ……」


 だーかーらぁ、肝心なところが……っ!!


 そんな風に思った瞬間、気づく。

うまく聞き取れないことに少しずつ苛立って、そんな自分がなんとも情けない。


「…アホくさ……」

 そうだ、たかが女子高生の会話だ。

そんな風に自分を慰めて、渇きはじめた喉を潤すためにも休憩所に向かうことにする。

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