理想恋愛屋
 プシュっと音を立てて、ぴりぴりと舌を刺激するような炭酸水を一気に流し込んだ。


 最近のオレはおかしい。

え?元から? いやいやいや、オレは健全なオトコの一人!


 そうじゃなくて、彼女が絡むと異様に反応してしまってる自分がいる。

まだこんな非日常の生活に慣れてないから、こうなるのかもしれないが……。

ソレを思えば、兄はなんてすごいやつなんだと尊敬すらしてしまいそうだった。


『さあ、お待ちかね!』

 ハイテンションの男の声が、スピーカーを通して体を叩くように館内に響いてきた。

 どうやらショーが始ったらしく、音が先ほどよりも大きい。

なによりも、スタッフがさっきより慌しく走り回っていた。


 腕時計を確認すると、あの控え室を出てからかなり時間が経っていた。

そんなに考え事をしていたのかと脱力感に襲われながらも、缶を所定どおりのゴミ箱にいれて振り返ったときだった。


「葵さん!!」

 血相を抱えた彼が走ってきた。


「どうしたんですか、早乙女さん」

 いつもは感じさせない緊張感がびっしりと張り付いているようだった。


「大変なんです!遥姫さんがいないんです!!」

「……はぁ!?」

 彼の予想すらしなかった言葉にすっとんきょうな声が飛び出た。

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