理想恋愛屋
 ……なんか、助けに来た意味がない気がする。


 そんな惨めなオレの気持ちとは裏腹に、激しい痛みに倒れている男たちへ、息を切らしながら最後に一言。

「女をみくびるんじゃないわよ、このタコ野郎共!」


 かっこよすぎです、ネエサン。

なんて、思わず見とれてしまっていた。


 しかしそんなことを悠長にいっている場合ではなかった。

時計を確認すると、ちょうど彼が言っていた十五分を迎えていたのだ。

「やっべ、おい、いくぞっ」

 それは彼女の細い腕に触れたときだった。

「触んないでよ!」

 パンッと彼女の手のひらがオレの頬に走る。

何が起きたのか、一瞬わからなくなった。

しかし、よくみれば真っ赤に腫れた手首、肩にも斑点がうっすら残っていた。

彼女自身もソレに戸惑っていたみたいで、すこし震えていた手を包むように両手を握り締めていた。


 いつもみたく、故意に手を上げたわけじゃないのが見て取れる。


「あ、アンタがいけないんだからねっ」

 慌てて、でもどこか怯えたようにふいっと顔をそらす。


 オレは曲がりなりにも、男。

今は、それがすごく悔しかった。


 そんな彼女を咎めることが出来るはずがなく、肩にそっと着ていた背広をかける。

オレにできることが、それぐらしか見つからなかった。


「……とにかく、急ぐぞ?」

 小さく頷いた彼女に、なるべく触れないように追い越して駆け出した。

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