理想恋愛屋

4.ヒマワリの君

 控え室につくとスタッフと早乙女サンが待ち構えていた。

「遅いですよっ」

 早乙女さんが急かすように怒ってくる。

それと同時に、隣の彼女は腰から折れるように頭を下げた。

「ご迷惑おかけして申し訳ありません!」

 そのおかげで、彼にも彼女の赤い痕が分かってしまったようで、驚いた視線をオレに向けてきた。

ただ黙って首を横に振るしかできなかった。


 控え室には先ほどのデザイナーの女性も待ち構えており、スタッフから彼女が着る衣装を受け取っていた。

「もう時間がないわ、やるわよ」

 キラリと光るように彼女を見つめていて、それに応えるように、彼女もまた力強く頷いた。

 彼女がオレに背広を渡すと、デザイナーが思わず声を上げていた。

「あなた、この怪我どうしたの?」

 それで気づいたのか、彼女は両腕で自分の体を隠すように抱きしめた。

「な、なんでもないです」

 痛々しい、その姿。

もっと早く気づいてあげられていれば……。


 そんな無駄なやるせなさが、無性にこみ上げてきた。

「もう、やめろよ」

 オレの言葉に、控え室では会場から漏れる音楽のみが流れた。

「あ、葵には関係ないでしょ!」

 彼女はプンと背を向けてカーテンを開く。


「あんな目にあって、まだいうのかよ!」

「うっさいわね!あたしだって生半可な覚悟じゃないのよ!」

 今にも“いつも”のようにバトルが始りそうだった。

だけど、これは“いつも”なんかより、意味が違う。


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