似非恋愛 +えせらぶ+

「付き合ってるんだったな」

 違う。
 付き合っている、ふりをしている。

 思わず泣きそうになる私は、必死に涙をこらえた。そのせいでひどく顔が歪んでいるに違いない。
 そんな私の様子に、間近にいる斗真が気付かないはずがなかった。

「……あいつのこと、忘れられないのか?」
「え」
「より、戻したいと思ってるんじゃないのか?」

 斗真が、私から離れた。

「俺に遠慮なんかするな」

 行きたかったら、行けばいい――そう、言われている気がした。

 結局、私は真治のことを吹っ切れていなかった。それなのに、斗真とややこしい関係になってしまい、正常な考え方ができていなかったのかもしれない。
 でも、こうして斗真と話をして、穏やかな時間を過ごして――真治のことは、私の中で結論が出た気がした。

「……多分、悔しいのよ、私」

 私はそっと、息を吐いた。
< 106 / 243 >

この作品をシェア

pagetop