似非恋愛 +えせらぶ+
「ご、ごめん」
「……ちっ……」
照れ隠しで背を向ける私に対して、斗真は不機嫌を隠そうともしていなかった。恨めしそうに私を見ているのが、ひしひしと伝わってくる。
「もしもし?」
『あー、香璃ーっ』
「っ!」
想定していたものと違う人物の声に、私は驚いた。
「ゆ、由宇……?」
『そー、久しぶり! 一昨日からジョージが出張でねー、寂しいから由紀と拓弥連れて帰ってきちゃった。香璃は帰ってこれないの?』
姉の由宇だった。
* * *
「こんにちはー」
「あ、斗真? いらっしゃーい」
玄関から聞こえてきた声に私はびくりと身を震わせる。そんな私の代わりに応えたのは、由宇だ。
幼馴染の斗真は、しょっちゅううちに遊びに来る。嬉しい反面複雑なのは、私が斗真を好きで、斗真は一つ上の姉の由宇が好きだから。
私と同い年の斗真は、隣に住んでいる男の子。親同士も仲が良く、年も近いこともあり、由宇と私と斗真で幼いころから、よく遊んでいた。
お互いの家を行き来する、気の置けない仲だ。
その関係が複雑なものになったのは、私達が思春期を迎えて、恋を覚えたからだと思う。