似非恋愛 +えせらぶ+
この坂を上る子供達の中に、幼い私と斗真の姿もある。同じ学年の子達と帰っているから、由宇はそこにはいない。
男の子達は元気で、坂を駆け上がって競争する。
息を切らして登っている姿を、私達は笑って見ていた。
それは、無邪気で、何も悩みなんてない、穏やかな遠い日々だった。
「……懐かしいね」
「な。……大人になっちまったな、俺ら」
坂を上りきったところで、斗真が歩みを止めて振り返る。私が追い付くのを待っていてくれているようだった。
私は少しだけ歩調を早めて、斗真に追いついた。
「大人になって……なんか、たくさんのものを無くしたような気がする」
斗真に聞こえるか聞こえないかの小さい声で呟いた私の言葉は、耳ざとい斗真にしっかりきこえていたようだ。
突然、私の右手を引っ張った。
「得たものもいっぱいあるだろ、きっと」
自信満々の笑みで、斗真が言う。
そんな彼が眩しくて、直視できなくて、私は繋がれた右手を見つめた。
ずるいよ、斗真。
なんで……そんなに、格好いいの。