似非恋愛 +えせらぶ+
「おう、約束だ」
「やくそく?」
約束という言葉の意味が分からず、首をかしげている拓弥を由宇に預ける斗真。
「また、遊ぼうな」
「うん……!」
「とーまくん、ばいばーい!」
由紀も両手で手を振っている。
「それじゃあね」
そんなふうに、私達は私の実家を後にした。
懐かしい景色とも、またしばしお別れだ。
「香璃」
「うん?」
前を歩いている斗真が、私の名前を呼んだ。
「……いや、なんでもない」
「なによ」
珍しく言いよどむ斗真に、私は笑ってしまった。でも、言いたいことの見当はついている。
「昨日の告白なら、忘れてもいいわよ。だって、昔の気持ちだもの」
さっき、斗真が拓弥に『今生の別れ』って言ったとき、本当はどきっとした。
あの日、斗真が突然いなくなったことを思い出したからかもしれない。
あの日の私は、こうして斗真と再会することを知らなかった私は、それを今生の別れだと思っていたのだ。
紛れもなく、ずっと好きだった男の子との、今生の別れだった。