似非恋愛 +えせらぶ+
「……悪かった」
「え?」
斗真の突然の謝罪に、私は首をかしげる。
「あの時、何も言わずにいなくなって」
「……今更よ」
私は笑った。こうして笑えるくらいに、気持ちの整理がついている自分に、満足した。
* * *
木戸さんが、私の顔をじっと見つめている。最初は気のせいかと思ったが、あまりに長いこと見つめているので、いい加減に反応してあげることにした。
「なんですか?」
「いや、篠っち、なんかあった?」
「なにか?」
どういうことだろうと思い、首をかしげる。木戸さんは苦笑して、頬を掻いた。
「いや、ちょっと前までは、うかつに触れられないような雰囲気醸し出してたけど、今日はなんかすっきりした顔してるから」
そんなことを言われてしまえば思い当ることなんて斗真のことしかない。ないんだが、周囲にそこまで気を遣わせてしまっていた自分が情けない。
「ちょっとプライベートでいろいろありまして」
「んー、ま、なんかあったら、こんな俺でも相談のるから、いつでも言いなよな」
さすが仕事のできる男・木戸さん。すごく優しいし気配りの人だ。