似非恋愛 +えせらぶ+
「私のことより、そっちはどうだったんですか」
「え?」
とはいえ、言われっぱなしも悔しいので、ちょっとからかってみることにする。
「みあとのデート」
「……そ、それはそれは和やかな時間を過ごせたぞ?」
答えるまでに間があった。
「要するに、特に何もなかったんですね」
「……ちっ、あの優男さえいなければ……」
呪詛を吐くように小声でつぶやいた木戸さんに、私は目を丸くする。
「……氷田君のことですか?」
「あれ、篠っち、面識あるっけ」
「みあと飲んでた時に、会いました。あんまり話はできなかったけど……」
そこまで言って、私はあまり氷田君のことを知らないことに気付いた。真治と別れて荒れていたこともあるし、斗真と再会して動揺していたせいもあるけど。
みあから聞いた氷田君の印象は、酷い男だ。
「氷田君、邪魔でもしに来たんですか?」
私の質問に、木戸さんは苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「邪魔でもしに来たんなら、まだいいよ。でもなぁ……」
「なんです?」
木戸さんは肩をすくめる。