似非恋愛 +えせらぶ+
「……佐川ちゃんは気づいてないけど、あの子の心にはあの優男がいるんだよ。取り入る隙もない」
自分の気持ちと向き合う決心をしているみあ。でも、その心には氷田君がいるというのだろうか。
私は、悲痛な顔で告白をしていたみあのことを思い浮かべる。そして、なんとなく納得がいった。
みあはずっと、氷田君のことが好きで、好きで……好きだから離れたんだ。
その気持ちが、消えるわけなんてない。私が斗真のことを忘れなかったように。
でもそれは、過去の気持ちであって、今のみあの気持であるわけじゃない。
氷田君のことを想い続けていた過去は消せないのだから、今のみあのベースになっていたとしてもおかしくはないんだ。
「でも、あの子は木戸さんに憧れてますから」
「……そうだな、ま、はっきり佐川ちゃんの口から言われるまで、自分から身を引くことはないよ」
木戸さんはそう言って笑って、営業先に行くと言って席を立った。
人のことを気にする場合ではないし、そんな筋合いはない。みあの恋愛に口を出すのもおかしい。
とはいえ、私はなんとなく、氷田君に興味が湧いた。
斗真と同じ会社で働いていて、みあが大学時代ずっと好きだった相手、そして今、みあのことを好きな男。わが社のスーパーマンこと木戸さんに弱音を吐かせてしまうような優男。
なんとなく、氷田君と話してみたいと思った。
そのチャンスは意外にも早く訪れた。