似非恋愛 +えせらぶ+

 ちょっと異常と思えるくらい、強引に誘っている自覚はあった。
 私がなんでこんなにも強引に、氷田君のことを知りたいと思うのか。それは自分でもわからない。

 氷田君に断られるのも承知の上だ。仕方ない。

「……もしかして、みあにきいていますか、俺達のこと」

 少しだけ緊張を帯びた瞳で、氷田君が見返してきた。

 彼の言う『俺達のこと』が何を指しているのかはわからない。でもきっと、過去の彼とみあの大学時代の話のことに違いない。

 私は無言でうなずいた。

「なるほど、そうですね、じゃあ、このあと静かに話せるバーにでも行きましょう。お誘いありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」

 * * *

 薄暗くて、ちょうど良い音量でBGMが鳴っている雰囲気のバーだった。打ち上げがお開きとなった後、私達はそれぞれ帰路についた。氷田君とここで落ちあう約束をして。

 氷田君を待っている間、キティというカクテルを飲みながら、私はぼんやり考え事をしていた。

 私がこんなにも氷田君のことを知りたいのは、たぶん、いや、きっと斗真との関係に答えを出したいと思っているせいなのだと思う。
 客観的に考えるためにも、氷田君とみあのことに興味があった。
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