似非恋愛 +えせらぶ+

 * * *

「んーっ、美味しい!」

 家から近いわりに、来たことのなかった店だった。ちょっと隠れ家っぽくてわかりづらく、近くを何度も通っていたけど気づいてもいなかった。

「んまいっ! 評価が高いだけあるね」
「うん、近くなのに、こんなお店知らなかった。凄い美味しい」

 お店の中もお洒落で、中世のお城に迷い込んだみたいなデザインだ。

「ちょっとこのお店、男だけでくるのも恥ずかしいから、篠塚さん付き合ってくれて嬉しい」
「確かに、ちょっと女性向けっぽい感じだね。でも本当に美味しい! 熟成肉っていうのは初めてかも……凄い柔らかいんだね、なんだろう、深い味がする」

 ちょっと陳腐な感想になってしまったけれど、小城君には伝わったみたいだ。

「言いたいことわかる。実は肉とかって腐る直前が美味しいんだって。ほら、果物とかも物凄い熟して甘くなるじゃん?」
「へえ、そうなんだ……。お肉も美味しいけど、お酒も美味しいね」

 フルーティな味わいが強めのサングリアを頼んだけど、本当に美味しい。

「ところでさ、篠塚さん、同棲までしてた彼氏と別れた理由とか訊いてもいい?」

 美味しいものを食べて、美味しいお酒を飲んで、幸せな気分に浸っていた私は、小城君の単刀直入の質問で顔を歪めた。
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