似非恋愛 +えせらぶ+
* * *
その日仕事を終えた私は、いつも通り遅めの時間に会社を出た。あくびを噛み殺しながら歩いていると、エントランス前に見知った姿を見つけて目を見開いた。
「え、斗真?」
斗真が会社の前にいたのだ。
「……え、何してるの?」
「香璃のこと待ってた」
私は慌ててスマホを確認するけど、特に連絡は来ていない。私がメールに気付かなかったというわけではなく、斗真は約束していないのにここに来たということになる。
「突然、どうしたの……?」
「たまには一緒に帰ろうかと思って」
「……いや、連絡してよ。どれくらい待ってたの?」
まさか連絡もなしに待っているなんて、信じられない。
ちょっと非難するように言ってしまった私を、斗真は見下ろす。何も言わずにじっと見てくるので、私は眉をしかめた。
「……なに?」
「いや、何か変わったことは起きてないか?」
突拍子もない質問に、私の頭の中ではクエスチョンマークが飛び交う。