似非恋愛 +えせらぶ+





 斗真を部屋に招き入れた私は、少し緊張していた。

「コーヒーでも飲む?」
「いや、要らない」

 とりあえず斗真に訊いたら、断られてしまう。
 斗真は部屋を見渡して、ちょっと驚いたような顔をした。

「荷物、大分片付いてるんだな」
「ごめんね、段ボール、ごたごたしてて」

 必要最低限のものを残してほとんど段ボールに入れてしまっているため、がらんとした部屋に段ボールが置いてあるような状態だった。

「……寂しくないか、ここにいて」
「うん、でも、もうすぐ引っ越すから」

 斗真が私の腕を引っ張った。そのまま見つめ合うような体制になる。気恥ずかしくて、目をそらした。

「そらすな」

 斗真の左手が私の頬にあてられた。

「斗真……」

 斗真の唇が押し当てられる。食べられてしまいそうな情熱的な勢いに、飲みこまれそうになる。

「と、斗真……待って……」
「待たない」

 斗真が私を抱えるように移動して、寝室へとつながる扉を開けた。その瞬間、斗真の動きが止まった。
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