似非恋愛 +えせらぶ+
しばらくのコール音の後、斗真が電話に出た。
「もしもし」
『香璃……』
昨日の夜のことは、現実じゃないみたいだった。斗真がいつの間にかいなくなっていたことも、その錯覚に拍車をかけていたと思う。
少しだけ気まずいような気持ちもあったけれど、それでも私は斗真に伝えなくてはいけなかった。
「今、大丈夫?」
『ああ、どうした』
「ねえ、斗真」
『うん?』
何事もなかったかのような斗真の声。
何もなかったことにしたいような斗真の声。
私も同じ。
何もなかったことにしようと思う。
「もう、やめよっか、こういうの」
『……』
私達のこじれた偽物の恋愛関係。
慰め合うだけの、体の関係。
もう、全部清算したかった。
これからもずっと、大事な幼馴染みでいるために。