似非恋愛 +えせらぶ+

「最初は、距離を置こうと思いました。でも、きちんと向き合って、陣の気持ちを聞いて……やっぱり、陣のことが好きだなって思いました。そして、期待してしまったんです。今度こそ、陣は私と一緒にいてくれるって」

 そうか、みあは怖かったんだ。かつてみあに甘え、みあのことを選ばなかった氷田君。氷田君の前から姿を消したみあ。
 みあも氷田君も人間だ。同じ過ちを繰り返さないかなんて、わからない。

 それでもみあは、氷田君を信じてみようと思ったんだ。

 お互い好きあいながらすれ違い、複雑に絡み合った時間を過ごした2人。5年の歳月を別々に過ごしてなお、また交わった2人。

 とても、素敵だと思った。

「素敵ね。今度こそ、幸せになってね」
「はい、ありがとうございます……っ!」

 感極まったみあの眼に涙が浮かんでいるのを見て、今までの彼女の葛藤が手に取るように分かった。

「本当に、頑張ったわね、みあ」
「はい……っ」

 大学の4年、別れてからの5年、そして再会してからの時間、みあはずっと苦悩してきたんだ。
 そんな彼女には、本当に幸せになってほしいと思った。
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