似非恋愛 +えせらぶ+
ランチからオフィスに戻る途中、偶然木戸さん達と鉢合わせた。木戸さんの気持ちを知っている私は、横目で木戸さんを伺う。
みあのあいさつに、木戸さんも普通に応えていたようだったけど、私と目があった瞬間、少しだけ寂しそうに笑って肩をすくめた。
そっか、知ってるんだ。
少し切ない気持ちになりつつも、私が口を出す問題じゃない。木戸さんはいい大人なんだから、自分で解決できるに違いない。
同じ会社で働いている仲間だけど、言うまでもなくそれぞれいろいろな事情を抱えているということを、改めて実感した。
「さて、午後も頑張ろう」
「はい」
席に着いて背伸びをして、私はパソコンのロックを解除する。今は仕事を頑張ろう。
* * *
湯船につかりながら、私は肩をもんだ。さすがに今日は頑張りすぎた。こうして帰宅してぐったり疲れるのを感じるたびに、どんどん年を取っていくのを実感する。
若い頃みたいに無茶はできなくなった。
こうしてお湯につかっている時間がとっても貴重に感じる。
しかし、みあの話を聞いて、本当に安心した。
「幸せそうだったなぁ……」
口にして、顔がゆるむのを感じた。そして、羨ましいと思った。