似非恋愛 +えせらぶ+
フェーズ1
再会
薄暗い照明で、少し離れると近くの客の顔もわからない。
そんな雰囲気たっぷりの居酒屋『竜胆』は、私の行きつけのお店だった。
嫌になるほどの喪失感に飲み込まれそうになる。
それが怖くて、私は右手のジョッキを力強く握った。
「ちょっと、香璃(かり)さん、飲みすぎですよ」
困ったような声が、私を制する。
「うっさいなぁ、飲まなきゃね、やってられないのぉっ」
私は、生ビールを一気に煽りながら叫んだ。
飲んでも、飲んでも、いつもの高揚感を得られない。それどころかどんどん頭が冴えていくようだった。
感情の底なし沼にでもいて、悲しくて痛い、嫌な感情が私を包み込むようだ。
付き合わせてしまった会社の後輩である佐川みあが、心配そうに私を伺っている。
こんな姿を彼女に見せているという現実が、突然私を正気に戻した。
「……ごめんね」
「いえ……」
突然しおらしく謝る私に、みあは首を横に振った。その様子がどこか猫のようで、本当に可愛い。
会社の人達に可愛がられているのが、よくわかる。
さばさばしていて、いい意味で女らしさを感じない。仕事にも前向きに取り込んでいて、一生懸命だ。そんな彼女のことを、私も凄く好きだった。
そんな彼女に対して、私がこんな醜態をさらしているのは、醜態をさらさなくてはならないような状態に陥ったのは、ある出来事が原因だ。
「……なんだったのよ、ほんと……」
「香璃さん……」
私、篠塚香璃(しのづかかり)は、3年付き合っていた飯山真治と別れた。原因は相手の浮気。
しかも一緒に暮らしていた私の部屋で、事に及んでいた場面に遭遇してしまったのだから、本当に最悪だ。