似非恋愛 +えせらぶ+

「私も、ちゃんとしなきゃ」

 頭の中に浮かんだのは、小城君の告白だった。もう、答えを先延ばしにする理由はない。

 可愛いと褒めてくれて、悪い気がしなかった。むしろ嬉しかった。
 『女の子』として扱ってくれた。

 ただそれだけの些細なことが、大人になった私にとって嬉しいことだった。

「前向きに、考えよう」

 小城君と向き合ってみよう。
 きっと、私だって幸せを掴める。

 悩んで、傷ついて、泣いた。
 その時間はきっと無駄じゃなかったし、傷つくのが怖かった私だって前に進めた。

 傷つくことは痛いことだと知っている。だけど、怖がっていちゃ何もできないことも知っている。
 斗真との関係にだって、結論を出せたんだ。

「大丈夫、私は前に進めてる」

 自分で自分を励まさないと、誰も励ましてなんかくれない。

「頑張れ、香璃」

 ぴしゃっと両頬を叩いて、私は気合を入れなおした。

< 200 / 243 >

この作品をシェア

pagetop