似非恋愛 +えせらぶ+
「じゃ、入ろうか」
当日のチケットブースは長蛇の列だったけど、小城君は事前にチケットを購入してくれていたみたいだ。とても段取りが良くて、ちょっと笑ってしまう。
「何?」
「いえ、凄く、デート慣れしてると思っちゃって」
私の言葉に、小城君は傷ついたような顔をした。
「心外だなぁ、篠塚さんとのデートだから張り切ったのに」
「ごめん、ごめん」
私はそっと小城君の手を握った。恥ずかしかったけど、これくらいしてもいいよね。
案の定、小城君は驚いた顔をする。
「……行きましょう?」
「うん」
いい年をした大人が手を繋いで水族館デートをしているのは、他人から見たらどう映るのだろうか。
でも、気にしない。
今の時間を楽しみたかった。
「あーっ、可愛い!」
最初は小魚が泳いでいる小さな水槽群だ。みんな、覗き窓みたいな水槽を覗き込んでいる。
色とりどりの小魚たちを見ていたが、1つ空っぽの水槽をみつける。
「え、これ、空っぽ?」
「ん、どれどれ……」
小城君が一緒に覗き込む。そうするとちょっと顔が近くて、恥ずかしい。小城君は真っ赤な顔の私に気づかず、水槽の奥を指さした。
「あっ、ほら、あそこ、岩のとこ。オニカサゴかあ。全然わからなかった」
指さされたところを見ると、確かに岩にくっついた魚がいる。