似非恋愛 +えせらぶ+
* * *
「んー、篠塚さーん?」
「え、あっ、ごめんなさい」
不動産関係の書類を記入するため、不動産屋に来ていた私はぼんやりしていて手が止まってしまっていた。
小城君が目の前で手を振って、はっと我に返る。
「どうかした?」
「ううん、何でもない」
記入しなくちゃいけないところはたくさんある。なんだってこんな同じような項目をわざわざ手書きで書かなくちゃいけないのだろう……。全部電子化してしまえばいいのに。
いちいち書くのが面倒な住所を書いて、そして埋めなくちゃいけないところをひたすら埋めていく。
「わからないところがあったら訊いてね」
「うん、大丈夫」
間違えちゃいけない書類だ、しっかりしなくては……。
時間がかかってしまったものの、同じような書類を3部、一通り書類を記入して小城君に渡した。
ボールペンを長時間握ることなんて、なかなかないので、親指が潰れてしまって変な感じがする。
「うん、大丈夫そう」
仕事終わりに寄ったわけだけど、どうやら小城君は特別に待っていてくれたみたいで、周りにはほとんど人がいなかった。