似非恋愛 +えせらぶ+

「香璃!」

 真治の怒声に、身体が反応し、足がもつれる。

「大丈夫?」

 ど、どうしよう? 何が起こってるの?

「香璃! 誰だよ、そいつっ!」

 息が上がって走れない。真治の声が間近に迫っていた。

「きゃっ」

 背中から服を思い切り引っ張られ、私はその場に倒れた。

「お前、何す……っ!」

 私と一緒にバランスを崩した小城君が叫ぼうとして、言葉を失った。私も、今の自分の状況が信じられず、言葉を発することができなかった。

 真治が刃物を持って、私の服を掴んでいる。

「香璃、お前は、俺のだろ……?」

 刃物が振り上げられるのが、スローモーションで見えた。



 その瞬間、いったい何が起きたのか私にはわからなかった。



 ただ、気づいたら、刃物は私の近くに落ちていて、斗真が真治を取り押さえていた。
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