似非恋愛 +えせらぶ+
「本当は、付き合ってるふりをやめたら……ちゃんと付き合えるのかと思ってた。俺の気持ちを伝えればいいってうぬぼれてた。まさか、他の男が出てくるだなんて思ってなかった。完全に油断してた」
そうか、偽物の関係をやめたあの時、私達の心はすれ違っていたんだ。
私は斗真を好きという気持ちを忘れるために。
斗真は私を好きという気持ちを伝えるために。
私達は偽物の関係をやめた。
「どうやって香璃の心を取り戻そうかと焦って……お前のことをイラつかせるし……途方に暮れてた」
「……不器用すぎでしょ」
「うるさい。黙って聞いてろ。それで、どうしようかと考えあぐねてお前の会社に行ったりしていたわけで……それであの男がうろついているのに気付いた。なにかやらかすんじゃないかって気が気じゃなくて、お前の予定をできるだけ把握しようとしてた」
「下手したら斗真の方がストーカーだったよ」
「ちげぇねえよ」
それで、今日の出来事が起きた。
「……香璃、俺と結婚してくれ」
「っ……!」
突然のプロポーズに、私は驚いて顔をあげた。
「もう、お前しか目に入らないんだ」
「私も、斗真のことしか目に入ってないよ……っ」
折角止まった涙が、また溢れてしまう。
「香璃、愛してる」
「私も愛してる」
こうしてこの瞬間、私の長かった片想いと偽物の恋愛に終止符が打たれた。