似非恋愛 ＋えせらぶ＋

「さあさ、今日は提案書をまとめてしまわなければ」

　そんな痛みを隠し通せるくらいには、私は大人だった。

「あ、はい、そうですね」

　みあも頷いて自席に戻った。
　私はそのままキャビネットのロックを開けて、ラップタップを取り出す。そして何度かのセキュリティロックを解除して、一息ついた。

　余計なことを考えている暇などない。少しでも進捗が遅れたら、あとに響くんだから。そうしたら関係各所に迷惑がかかってしまう。

　極力斗真のことを、斗真との情事のことを思い出さないようにして、私は資料作りを再開した。

　＊　＊　＊

　できあがった資料を、何度も繰り返し自分で見直す。
　文脈がおかしくないか、目的と手段があっているか、論理的に破綻していないか、提案として響く資料になっているか、おかしなところがないかをチェックする。
　どうやら、問題なさそうなので、私は上長にレビュー依頼のメールを出した。