似非恋愛 +えせらぶ+
「たまに人が早く帰ってみれば……ほんと、やってらんないわ」
ぼやいて、私は新しく届いた生ビールを口に含んだ。やっぱり、いくら飲んでも頭はさえるばかりだった。
あの、嫌な光景が脳裏に焼き付いている。
珍しく早く帰れた私が、久しぶりに過ごせる好きな男とのゆっくりとした時間に夢想していた私が、帰宅して突きつけられたのは、好きな男が、他の女を抱き寄せる光景だった――。
私もみあも、Aglous(アグラス)という会社のシステムエンジニア、通称SEをやっている。
お客様と要件を詰めたり、設計、開発、テスト、リリースなど、全ての工程を手掛けている私達にとって、夜遅く帰ることは日常茶飯事だった。
家を空けていることが多かった私のいないときに、幾度となく真治が女を連れ込んでいただなんて、想像もしたくなかった。
今年三十路になる私は、真治との結婚を真剣に考えていたというのに――……。
そのとき、軽快な音をたてて、みあのスマホが着信を告げた。ちょっと激しい感じのこの音楽は、たぶんみあの好きなバンドの歌だ。
「あ」
スマホを確認したみあが、少しだけ困ったような顔をした。私に遠慮したのだろうか。そんな気遣いのできるみあに、私は微笑んだ。
「いいわよ。出たら?」
「ごめんなさい」
みあは私に軽く頭を下げると、電話に出る。