似非恋愛 +えせらぶ+
『香璃?』
「……ごめん、ちょっと待って」
私は電話に耳を当てながら、小走りで部屋を出る。ここまでくれば、私用電話をしていてもとがめられないだろう。
そっと息を吐いて、私は斗真に謝る。
「ごめんなさい」
『いや、忙しかったのか?』
電話越しに斗真の低い声が聞こえる。その声に、驚くほど落ち着いた気持ちになった自分がいた。
「ええ、ちょっとやることがあって。でももう帰れるわ」
『でも、明日も仕事だろ? どうする? 今から会うか?』
斗真の言葉は気遣いか、はたまた面倒な気持ちを遠回しに伝えているだけか。
私が突然わがままを言っただけだ。斗真がそのわがままに付き合う筋合いはない。
「……ごめん、迷惑よね」
思わずため息が出た。本当は、誰かと一緒に痛い気分なのだ。
そう、素直に伝えればいいのに、私は可愛くない。
それも、私と斗真の微妙な関係のせいなのかもしれない。
ただの幼馴染のままなら、なんの迷いもなく我が侭が言えたのかもと、そうなんとなく考えた。