似非恋愛 +えせらぶ+
「もしもし、どうしたの?」
声を潜めて、みあは電話の相手と話す。漏れ聴こえる声から察すると、どうやら相手は男性のようだ。
私はその様子を伺いながら、ビールを煽る。炭酸と冷たさが喉を過ぎていき、独特の苦さが胸の奥を熱くする。
「え、竜胆ってお店よ。そう。え、こっちにくる?」
みあが当惑したような声を出して、私を伺った。
「えっと、今、私会社の先輩といるの。え、ううん、2人だけど……」
どうやら、電話の相手がみあと合流したいという話らしい。みあは私を理由に断ろうとしているが、私は笑って口を開いた。
「あら、いいじゃない。来ても」
こんなに寂しい夜は、大勢と話していた方が良い。
それが初対面の相手だったとしても。
「え? 良いんですか……?」
みあが、驚いたように訊ねた。
「いいわよ」
戸惑うみあをよそに、私は笑顔でうなずいた。
「ありがとうございます」
みあは私に一礼すると、電話の相手に話しかけた。
「陣、先輩が良いって。うん、わかった。待ってる」
みあが電話を切る。どうやら、相手の名前は『じん』というらしい。
興味が勝って、私は身を乗り出した。