似非恋愛 +えせらぶ+

「そうなの、楽しんできて」

 心なしか、冷たい声になってしまった。

 そして、自分の中の醜い感情に気付く。
 私は、みあに嫉妬している。

 なんて、愚かで醜い感情だろう。そんな感情を向けられる筋合いは、みあには少しもないはずなのに。

 案の定、みあがはっとして私を見た。そして慌てたように言葉を続けた。

「あ、あの香璃さん……、また誘ってください」

 あまりにも情けなさそうに紡がれた言葉に、私は盛大に反省した。後輩に気を遣わせてどうする……。

「うん、また誘うわね」

 私も声のトーンに気を付けて笑顔を向けると、みあがほっとしたような顔をした。


 後輩がデートをするからといって、恋愛がうまくいっていない私が僻んでいたら、それはただの嫉妬でしかない。
 そんな醜い女にはなりたくなかった。

 それでも、氷田君と会うのを心なしか楽しみにしているみあを見ると、羨ましいと思ってしまった。
 結局、私は淋しく卑しい女だった。









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