似非恋愛 +えせらぶ+
私は小走りで斗真に近づいた。しかし、なんだろう、ちょっと声をかけづらかった。
「斗真、久しぶり」
「ああ」
心なしか、返事をした斗真の声が冷たい。
気のせい、だろうか。
「……怒ってるの?」
思わず、訊いてしまった。
あの、会社で会った日に目も合わせてくれなかったことも、メールの返事をくれなかったのも、私が何か怒らせるようなことをしてしまった結果だったのだろうか。
「何に?」
斗真が目を細めて私を見る。真っ直ぐ見つめられて、私は恥ずかしくなる。何も言えずに、口ごもった。
無視をされて傷ついたとか、メールの返信がなくて悩んだとか、斗真のことを考えていたことを悟られるのは、私の無駄なプライドが許さなかった。
そんな私の頭を、斗真が撫でる。
その手が、優しかった。
「ほら、行くぞ」
口元に笑みを浮かべた斗真が左手を差し出す。私は思わず、差し出された左手を握った。大きくて骨ばった手が、私の手を包み込む。
やっぱり、優しい。