似非恋愛 +えせらぶ+
そのとき、店に男の二人組が入ってきた。店内を見回しているのを見て、気づいたみあが手を振った。色素の薄い、茶色がかった髪をした方が、みあを見て片手をあげた。どうやらこれが『じん』のようだ。
連れのもう一人は相当酔っているのか、片手で顔を覆いながら、『じん』についてくる。
「ごめん、無理言って……どうも、氷田陣(ひだじん)です」
名乗りながら、氷田君はみあの隣に座った。
「篠塚香璃よ」
私に頭を下げる氷田君は、女の子が放っておかないであろう甘いマスクをしていた。もう一人の方は、相当辛いのか何も言わずに私の隣に腰を落として机に突っ伏した。
その様子を見た私とみあが、目を丸くする。もちろん私も、閉口した。氷田君が困りはてて、疲れたように口を開いた。
「本当に申し訳ないです……。こちらは、後石斗真(ごいしとうま)さん。僕の会社の先輩なんです」
え?
ごいし、とうま?
「え?」
氷田君の言葉に、私は耳を疑って隣にいる男性を見た。
「……嘘、でしょ……?」