似非恋愛 +えせらぶ+
「ごめんなさい」
「いや、そんな日もあるだろ。ほれ」
木戸さんは持っていた板チョコをくれた。
「ありがとうございます」
「おう。苛々しているときは甘いもの食べるに限るぞ」
木戸さんが笑顔で言う。なんだろう、心なしか木戸さんは嬉しそうだ。
「なにか、良いことでもあったんですか?」
私が胡乱げに木戸さんを見ると、木戸さんはにんまりと笑う。
「お、わかる?」
「ええ、そんなに意味深に笑っていたら」
訊かれたくてたまらないのだろうか、この人は。
「やっと好きな子がデートの誘いに乗ってくれたんだよ。な、佐川ちゃん?」
「え、ちょっと、木戸さん」
突然話しかけられたみあが、たしなめるような声を上げた。その顔が、少し赤くなっている。