似非恋愛 +えせらぶ+
それでも、みあは言葉を続ける。
「辛かったから、私は大学卒業と同時に彼の前から姿を消しました。彼に1枚の手紙だけを残して……」
「え?」
想像していなかった言葉に、私は思わず呆けた声を出した。
みあが、困ったような顔をしている。どうやら、どう説明しようか考えあぐねているようだった。
「陣と別れてから、この会社に就職しました。一人で生きるために、彼のことを忘れるために、必死でした」
え、ちょっと待って……。
「そうして5年です。思い出になりかけていたんです。陣のこと」
それって……。
「私は、木戸さんに憧れを抱いていました。やっと、前に進めると思ったんです。長かった、陣への想いを昇華して、私は前に進めると思っていました」
まさか……。
「それなのに、運命って皮肉ですよね。そんな時に陣と再会するなんて……それも、職場で」