似非恋愛 +えせらぶ+
しばらくぼんやりしていると、見慣れた姿がエントランスから出てきて、私ははっと顔を上げる。
そして、言葉を失った。
出てきた斗真は1人ではなかった。隣に、可愛い女の子がいた。同性の眼から見ればすぐにわかるような気合の入ったお洒落をした女の子は、きらきらした笑顔で斗真を見つめていて、なにやら楽しげに話をしている。それを聞いている斗真も、私が見たことのないような優しい顔をしていた。
その時、斗真と目があった。斗真が驚いたように私を見る。無理もないだろう、連絡もなしに、ただ慰めのためだけの女が自分の会社の前にいたのだから。
自分がみじめで、泣きそうになった。きっと私は今、酷く間抜けな顔をしているだろう。
不自然に視線を止めた斗真に、一緒にいた女の子が首をかしげる。私はその光景を見ていられなくなり、その場から逃げだした。
人ごみに紛れて駅に向かう道中、心臓が馬鹿みたいに鳴っていて、平静ではいられなかった。そのとき、鞄の中でスマホが鳴った。このタイミングだ、確かめなくてもきっと斗真だろう。
私は、歩む足を止めなかった。電話にも出ず、ただバイブレーションで震えるスマホが静かになるのを待った。