似非恋愛 +えせらぶ+
「斗真……?」
私が声をかけると、斗真が勢いよく身を起こした。その瞬間、頭痛がしたのかすぐに頭を押さえる。
そして、その驚愕に見開かれた瞳が私を見た。
「由宇(ゆう)!?」
その名前が出た瞬間、私の心が酷く軋んだ。
由宇は、それは、私の姉の名前だ。
霞むのか目をこすって細めた斗真は、しかし、首を横に振った。
「すまない、香璃か」
「そうよ。覚えていてもらえたようで嬉しいわ」
動揺を悟られないように答えた私の言葉に、斗真が少し驚いたような顔をする。おそらく、斗真の知っている私はこんな話し方をしていなかった。
でも、こちらだって驚いている。私の知っている斗真の声は、こんなに低くなかった。
今は薄暗くてよく見えなくても、斗真の目の色が黒くないことくらい、私は昔から知っている。スウェーデンと日本のハーフである彼の瞳は、蒼かったから。
座っていてもわかる。斗真はあれから、背が伸びている。そして、スーツを着ていてもわかる。少年だった斗真は、大人の男の身体になっていた。