似非恋愛 +えせらぶ+

「美味しかった。ありがとう」
「片付けてくるから。シャワー浴びてこいよ」

 空いた食器を手に取り、斗真が立ち上がった。その言葉に私は口元に笑みを浮かべる。

「泊まっていけってこと?」
「そういうこと」

 私は、斗真の気持ちがわからない。
 いっそのこと、訊いてしまえばいいのだろうか。

 訊いたら、楽になれるのだろうか。

「着替えとタオル、用意しておく」

 でも私には、斗真の背中に声をかける勇気なんてなかった。

「それじゃあ、シャワー借りるね」

 私はどこまでも、ずるくて、卑怯だった。








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