ボクはボクでも、僕じゃない。
彼女
仕事が終わり、僕はタクシーで一葉さんの働くお店に向かっていた
遠野 一葉さん 23歳
1ヶ月前、入院していた僕のお見舞いに突然やって来た女性だ
花束を抱き締め、僕を見ると涙を流し
そして
一「・・私、あなたの彼女だよ
覚えて、ない?」
そう一言
僕は最初理解が出来なくて、でも両親にも「そうだったんだよ」と言われた
彼女はそれから毎日見舞いにやって来て、僕の世話をしてくれた
良い人で、優しくて、明るくて
でも、そんな一葉さんとの思い出を全く覚えていない自分が悔しかった
一「良いんだよ
また、思い出作っていこう」
初めて唇を重ねた時は、情けなくも僕は涙を流していた
「・・渋滞か」
タクシーの運転手がぼそりっと呟く
動かない車の波をボーと見つめていると、歩道橋に目が行った
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