ボクはボクでも、僕じゃない。
恐怖
『・・うん、本当ごめんね』
一葉さんに一言謝り、通話を切った
くるっと振り返ると、未だしゃくり上げる先ほどの女性がソファに疼くまっていた
『・・・大丈夫?』
声をかけると、ビクッと体を強張らせる
『こんなスイートルームにいきなり連れて来てごめんね
別に下心はないから』
顔を上げた彼女はクスッと笑い、「そうかもね」と相槌を打つ
『名前は?』
向かいのソファに腰をかけ、そう聞くと、小さな声で返事が返ってきた
香「村井 香奈枝」
『・・へぇ、オシャレだね』
再びクスッと笑った香奈枝さんに、僕も安心した
香「・・Your name?」
『吉村 貴斗』
香「・・・・・・・」
目を大きく見開いて、彼女は僕を見つめる
それは時たま見せる、社員と同じ表情だった
『・・僕の名前、変?』
ハッと我に返ったように香奈枝さんは首をブンブン振る
香「・・知り合いと、同じ名前だったから」
歩道橋で彼女が言っていた言葉を思い返した
¨ 貴斗 ¨
・・彼女の、恋人の名前だろうか
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